こんにちは。戸越銀座レディースクリニックに勤務している助産師です。
今回は、母乳について、どのような仕組みで分泌されるのか?ホルモンはどのように調整されるのか?など、解剖学的な視点からお話していきたいと思います。
母乳の成分についても解説しておりますので、母乳にするかミルクにするか混合にするか迷っている方や、母乳の割合を増やし ていきたいけれど上手くいかないように思う方などの参考となると幸いです。
また、コラム後半には母乳に関する心配ごとについても記載をしておりますので、ぜひ合わせてご確認ください。
産後すぐ、母乳がどのように作られているのか1 母乳が生成されていく
過程は3段階ある!?
①分娩後0日~2日頃
後述する、プロラクチンというホルモンの刺激により母乳が作られていきます。この時期に分泌される母乳は初乳と呼ばれ、感染を防ぐ物質(免疫グロブリン、ラクトフェリンなど)と抗酸化物質(ビタミンA、ビタミンEなど)を多く含みます。
②分娩後3日~8日頃
母乳は、分娩後のホルモンの変動による刺激により分泌量が増加します。また、母乳中の乳糖と乳脂肪の濃度が上昇します。この時期から、おっぱいが張って痛くなることが起きてきます。
③分娩後9日以降
この時期になると、1回の授乳や搾乳で乳房内から出される量に応じて新たな母乳が作られます。そのため、頻回に授乳することで、より多くの母乳が作られます。有効に乳房から乳汁が飲み取られることが、母乳分泌の維持に関わってきます。
続いては2 母乳分泌に関係する
ホルモン・因子
プロラクチン
プロラクチンは、母乳分泌の開始と維持に必須のホルモンです。プロラクチンの濃度は分娩直後が最も高く、その後ゆっくりと低下していきますが、授乳(乳頭刺激)のたびに一過性の上昇を認めます。授乳回数が多い方が血中プロラクチン濃度は高くなります。24時間に8回以上授乳していると、次の授乳までに濃度が低下するのを防げるとも言われています。
オキシトシン
オキシトシンは、赤ちゃんが吸啜する刺激に反応して放出され、射乳反射を起こします。オキシトシンは母乳の生産維持に必須です。赤ちゃんが授乳を開始すると1分以内に血中濃度が上昇し、射乳反射を起こします。また、オキシトシンは、母親が赤ちゃんのことを考えたり、赤ちゃんの匂いを嗅いだり、泣き声を聞いたりするだけでも分泌され、射乳反射を起こすことが知られています。
乳汁産生抑制因子(FIL)
母乳の分泌が始まった母親では、授乳回数が多いほど乳汁産生が多くなります。授乳回数が同じでも、赤ちゃんの要求が増すにつれて1回の授乳で飲む量は多くなります。赤ちゃんが1回の授乳で飲み取ることができる最大量は、乳房が提供できる量の70%~80%と言われており、約2割~3割は必ず乳房内に残ります。母乳中には、乳汁産生抑制因子(FIL)という蛋白が含まれており、母乳が長時間溜まるとその濃度が上昇し、母乳の産生を低下させることがわかっています。
どのようなケアが必要なの?3 母乳分泌の産生量を増加
および維持するための方法
産後1か月頃まで
分娩後9日を超えると、左右それぞれの乳房で産生される乳汁は、前回の授乳でどれだけ母乳が乳房から飲み取られた(搾乳されたか)で決まるようになります。母乳の生産を増やしたい場合は、できる限り頻回に、しっかりと赤ちゃんに飲み取ってもらうか、搾乳することが有効です。しっかりと赤ちゃんが飲み取っているサインとして、授乳後の胸の張りが落ち着き軽くなった実感があること、赤ちゃんがゴクゴクと母乳を飲む音がすること、満足そうにしていることなどが挙げられます。
生後3か月頃まで
産後1か月を超えてくると、母乳の分泌も落ち着き一定になってきます。生後3か月までは1日6回以上の授乳で分泌は維持できると言われています。夜間母親が睡眠をとることでホルモン(プロラクチン)の分泌が増え、母乳の分泌も増やします。そのため夜間の授乳も効果的です。
生後4か月以降
赤ちゃんの要求に合わせての授乳でOKです。個人差も大きく出てくる頃になりますが、赤ちゃんの体重が問題ない範囲で増えていれば大丈夫です。
4 母乳育児の疑問・心配ごと
母乳が足りていないように思う
母乳はミルクと違い、飲んだ量がはっきりとわからず母乳不足を心配することがあります。赤ちゃんの体重が、成長曲線に沿って増加しているようであれば、心配ないと言えます。当院の母乳外来や育児相談でも赤ちゃんの体重チェックが可能です。
おっぱいが張らない
産後6週間を過ぎると、おっぱいが張らなくなってくる方もいらっしゃいます。母乳の分泌が減ってしまったと心配される方もいらっしゃいますが、おっぱいが母乳を作りやすくなり、張る必要がなくなったと考えてよいでしょう。
頻回授乳が続いている
新生児期を超えたあとも、何度も母乳を欲しがる赤ちゃんもいます。栄養をとるためだけでなく、スキンシップとしておっぱいや母乳を欲していることもあります。おっぱいにトラブルが生じているなどの問題がなければ、赤ちゃんの個性と捉えてよいでしょう。
授乳回数が少ない
生後3~4か月で授乳回数が減る赤ちゃんもいます。体重増加が問題なければ、赤ちゃんのリズムに合わせての授乳でよいでしょう。
搾ってもあまり出ない
搾乳と直接授乳は、母乳の出方が違います。搾乳量が少ない=母乳の出が悪いわけではありません。
また、母乳が足りていない感じがするときに搾乳をしすぎてしまうと、母乳が作られすぎてトラブルにつながってしまう可能性もあります。心配なときはお近くの母乳外来でご相談をいただけると良いかと思います。
おわりに
ここまで母乳分泌の仕組みや疑問点について説明させていただきました。
母乳育児を行っていきたいという気持ちの方は、産後早期に頻回な授乳をすることで早めに母乳分泌が軌道に乗ってくることが多いため、心がけていただくと良いかもしれません。ただ、頻回な授乳では、乳頭が傷ついたり痛みを感じたりしてしまうことも起こりえます。深い吸着を意識していても、母乳育児を始めたばかりの乳房・乳頭は刺激に弱く、皮膚トラブルを完全に防ぐのは難しくも あります。そんな時は、保護クリームの使用も効果的でしょう。
そしてまた、母乳育児が育児の全てではないと、私は考えています。
前回のコラムにもあるように、母乳・混合・ミルクにはそれぞれにメリット・デメリットがあります。栄養方法を迷うこともあるかもしれません。ご自身の考えも大切だと思います。迷ったときには、赤ちゃんの声を聞き、赤ちゃんが好む方法で、行ってみるのも良いかもしれません。一番大切なのは、ママが笑顔で育児に向かえることだと思っています。ご自身や赤ちゃんの希望、生活スタイルに合った方法で育児が行えると良いかと思います。お困りの際や迷った際には、母乳外来・育児相談でぜひご相談ください。いつでもお声がけいただければと思います。
まとめ
本コラムが、皆さまの出産施設検討の一助になりましたら幸いです。
何かご質問やご相談がありましたら、いつでもお気軽にお声かけください。
戸越銀座レディースクリニック診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
この産婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 助産師新居 諒子
経歴
- 日本赤十字看護大学大学院国際保健助産学専攻 卒業
- 都内地域周産期センター産科勤務
資格
- 看護師
- 助産師
メッセージ
私は卒業後、地域周産期センターにて妊婦さんや赤ちゃん、そのご家族のケアを実践して参りました。
周産期センターでの勤務では、妊婦さんと関わる機会は多かったですが、地域で生活する女性と関わることは少なかったので、クリニックで幅広い年代の方々のサポートができることを嬉しく感じております。
当院に来院される皆さまが、受診後に少しでも過ごしやすくなっていただけるよう、助産師として働いていきたいと思っております。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
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