更年期症状/障害

更年期症状/障害

 女性は生涯に渡り、年齢とともに4つのライフステージを経験します。4つのライフステージとは思春期 ・成熟期・更年期・老年期を指します。閉経を迎える平均年齢は50歳であり、その前後5年間を含む 合計10年間が閉経移行期、いわゆる更年期となります。更年期が訪れる原因としては、年齢とともに 卵巣機能が低下し、分泌される女性ホルモン(エストロゲン)量が減少することによります。更年期とは どのような症状なのか、どういった場合に婦人科を受診し治療すべきなのか。今回は更年期症状/ 更年期障害に関して説明していきます。

更年期症状とは?

更年期の定義

 日本産科婦人科学会では「閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を更年期」と定義しています。日本人の閉経年齢の平均が50歳とされていますが、更年期は卵巣機能の低下に加えて生物学的要因・社会的/環境的要因・心理的/性格的要因に影響を受けるため症状は現れ方は人によって様々です。年齢的にこの時期は周囲の環境の変化が起こりやすいためライフステージの側面から捉えられる概念でもあります。生理のあった女性から閉経に入ったかどうかは特定できません。そのためご自身の自覚症状や年齢から更年期になっていることを推測していきます。FSH(卵胞刺激ホルモン)や女性ホルモン(エストロゲン)を使用した内分泌マーカー検査によりある程度の推測はできますが、閉経移行期では特に変動の激しいため診断には判断できないことも多くあります。閉経したかどうかは生理が12ヶ月以上ない状態が続いている場合に初めて判断されます。


更年期に見られる症状

 更年期にみられる症状は主に①血管運動症状②精神症状③頭痛④認知機能低下⑤泌尿器・生殖器症状⑥自律神経症状の6種類におおまかに分けられます。

①血管運動症状:

 ホットフラッシュ、いわゆるほてりやのぼせに代表されるように発汗とともに起きる症状のことを指します。ホットフラッシュは通常1〜5分間持続士、血圧の変動ないが脈が少し早くなります。多くは上半身を中心に顔面から始まり全身へと広がっていきます。更年期の始めの頃に症状があわれることが多く、軽症の場合は2年以内で自然消失します。生活習慣が関係しており、運動不足・肥満・喫煙は危険因子となります。

②精神症状

 更年期では半分近くの方が不眠症の頻度が高くなることが知られています。長期に渡り不眠の症状がある場合は疲労感や倦怠感、集中力の低下、イライラ、日中の眠気、情緒の不安定につながります。そのほか意欲の低下、将来を不安に感じるなどの症状も更年期に増加します。更年期では仕事のこと、家庭のこと、ご自身の年齢による変化に伴う身体的不調など社会的・心理的側面からも精神面に影響を与えることがあります。

③頭痛

 ホルモンの変動が関与しているとされており、更年期自覚されることもあります。閉経後は軽快することが多いです。

④認知機能低下

 更年期においては物忘れや集中力の低下を含めた認知機能低下の自覚も多く経験される症状の1つです。更年期における単なる認知機能低下の自覚と将来の認知症とは関連はないと考えられています。

⑤泌尿器・生殖器症状

 泌尿器・生殖器症状:年齢を重ねるごとにトイレが近い・尿が漏れるなどの症状を自覚することが増えます。更年期では女性ホルモンの低下や骨盤底筋群の筋力低下も関与します。

⑥自律神経症状

 動悸・息切れ・めまいなどが挙げられます。これは一律に更年期症状とは判断できず、他に病気などの原因がないかどうかの確認が必要となります。

更年期症状の原因

 閉経の正確な機序に関してはまだ明らかになっていないこともあります。ただし原因の根本にあるのは卵巣の加齢性変化となります。女性の卵巣は年齢とともに段々と萎縮し、卵胞の数の減少やホルモン分泌機能の低下、卵巣にある血管の動脈硬化が起こります。具体的にはもともと約15gほどある卵巣が更年期を境に徐々約5gまでと3分の1程度に萎縮・縮小します。これに伴い卵巣から分泌されている女性ホルモン(エストロゲンE2)の量は閉経に向かって徐々に低下していきます。分泌量としては閉経前の10分の1までに減少します。この女性ホルモン(エストロゲンE2)の減少が更年期における様々な症状の原因であるといえます。ただし女性ホルモン(エストロゲンE2)値やFSH(卵胞刺激ホルモン)値を測定しても変動が大きいため閉経の予兆を推測することはできるが、閉経する年齢の予想にはあまり役に立たないとされています。

更年期症状で受診するタイミング

更年期症状と更年期障害の違い

 更年期障害とは日常生活に支障をきたすほどの更年期症状があり治療が必要な状態を指します。日本産科婦人科学会では更年期症状は「更年期に現れる多種多様な症状の中で、気質的変化に起因しない症状」と定義されます。さらにその中でも「更年期症状の中で日常に支障をきたす病態」を更年期障害と定義しています。更年期障害の主な原因は卵巣機能の低下であり、これは加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することによって症状が現れます。更年期障害における症状の多くは卵巣機能の低下が共通した要因として挙げられますが、更年期障害をどのように捉えるかはまだまだ議論の余地があり、概念や治療方法が変わっていく可能性があります。


更年期障害で受診する時に必要なもの

 産婦人科を受診する際には気になっている症状がいつ頃から始まったのかわかるメモがあると良いでしょう。
また閉経移行期であるかどうかを判断するためにここ最近の生理の日付やリズムの記録があると医師の判断に有用です。
 日頃からスマートフォンのアプリやメモでも良いのでご自身の生理と不調がみられた日に関する記録を残すようにしましょう。また更年期の症状が見られる年齢では内科含めほかの病気が見つかりやすい時期になります。最近受けた人間ドッグや健康診断、婦人科検診の結果をお持ちの場合は持参されるとスムーズに治療に進むことができます。また持病や.治療をされている方はお薬手帳など現在の治療についてわかるものがあると良いでしょう。

更年期障害に対して行う検査

まずは問診によってこれまでの病気の経歴・現在の身体の状態や症状を確認していきます。内容としては現在お困りの症状とともに月経の有無、月経がある場合は最終月経の時期、閉経している場合は閉経からの期間を知ることが重要となります。そのほかに過去にかかったことのある病気、治療している場合はその内容、生活習慣についても聞かせていただくことがあります。アンケート形式の質問用紙に記入することで現在の更年期症状の重症度を判断する場合もあります。
 またホルモン補充療法を行う場合には身体に問題がないかどうかの検査を行います。具体的には血圧、身長・体重測定、1年以内に受診していなければ乳房検査・婦人科検診、必要があれば骨密度・採血検査・心電図などを追加していきます。ここ最近で何かしらの検査をしている場合はその結果を持参されると検査を省略できることがあります。

更年期障害の治療

漢方療法

 更年期障害は多彩な症状を持つため漢方の効果は良い適応となります。
特にホットフラッシュ(血管運動神経)症状がそれほど強くないが、身体症状や不安・抑うつ症状が中心である場合は好んで使用されます。具体的に更年期障害で使用される漢方は当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・加味逍遙散がよく用いられます。他にもたくさん漢方には種類があり、症状により使い分けていきます。また後述するホルモン補充療法との併用も有効とされます。症状によって使用する漢方が異なってきます。そして更年期障害の特徴の1つとして年齢ととともに中心となる症状が変化していきます。そのため漢方療法に興味のある方はいまの症状に何が適しているか主治医に相談してみてください。


更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)

 更年期障害で起こる症状は女性ホルモン(エストロゲン)低下の影響を最も受けている可能性があるためホルモン補充療法(HRT)の良い適応となります。代表的な症状であるのぼせ・ほてり・発汗・ホットフラッシュなどの血管運動神経症状に大きな効果をもたらします。ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)には内服薬・貼り薬・塗り薬(ゲル)の形状があります。
 子宮を有している女性の場合は子宮体がんのリスクを回避する目的でエストロゲンの他にもう1つの女性ホルモンである黄体ホルモン製剤を併用して投与する必要があります。ホルモン補充療法(HRT)を行っている間は不正性器出血が現れることがあります。病気が隠れている場合もありますので必ず処方している医師に相談しましょう。また抑うつ・いらいら・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬も並行して用いられます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの新規抗うつ薬は副作用も少なく、またほてり・発汗などの血管運動神経症状にも有効であることが知られています。

手術により子宮全摘出術をしている場合の
更年期障害に対するホルモン補充療法

 何らかの理由で子宮を摘出している女性の場合は女性ホルモンであるエストロゲンのみを投与する方法となります。
持続的に薬を飲み続ける持続的投与法と薬を飲む時期の飲まない時期を1ヶ月のなかで設ける間欠的投与法があります。
 またホルモン補充療法(エストロゲン)を投与している間は乳房の張りを感じる方もいます。
症状の変化や、症状に不安がある場合は処方している医師に相談するようにしましょう。抑うつ・いらいら・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬も上記と同様に並行して用いられます。

更年期症状/障害まとめ

 更年期症状/更年期障害は少しの知識や治療により大きく生活の質を改善することができます。
当院では患者様の不安や不調に寄り添いながら1人1人に最適な治療を提供いたします。
少しでも自分らしく快適に過ごせるようお手伝いいたします。
ぜひご相談ください。

戸越銀座レディースクリニック診療案内

 戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
 産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。

その他

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 各種婦人科検診・ワクチン接種・ピル処方のほか、女性の健康に関連する検査を組み合わせた婦人科ドックをご提供しています。
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産科・妊婦健診

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 当院には周産期施設にて勤務してきた女性医師・助産師が在籍しております。妊娠・出産前後に関するご相談をお受けします。妊娠を通して変化する心と身体に寄り添った診療を提供いたします。
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婦人科検診・ドック

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 戸越銀座レディースクリニックでは定期検査・婦人科検診を含めた婦人科診療に力を入れています。女性の一生に寄り添えるクリニックを目指します。
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自費診療

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婦人科

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 戸越銀座レディースクリニックは女性の様々な世代において起こりうる身体の変化・お困りごとに対して寄り添い、快適に過ごせるよう最適な診療を提供いたします。
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この婦人科コラムを書いた人

戸越銀座レディースクリニック 院長・産婦人科専門医里井 映利(さとい えり)

経歴

  • 日本医科大学医学部卒業
  • 日本医科大学付属病院 初期研修
  • 周産期センター・総合病院 産婦人科 後期研修
  • 総合病院 厚生中央病院 産婦人科 産婦人科常勤医師
  • 複数企業にて嘱託産業医

学会・資格

  • 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医
  • 日本女性医学会 女性ヘルスケア専門医・女性のヘルスケアアドバイザー
  • 日本思春期学会 認定性教育講師
  • 日本生殖医学会会員
  • 日本周産期・新生児医学会 会員
  • 日本女性心身医学会 会員
  • 日本医師会認定産業医

メッセージ

私は主に目黒にある総合病院の産婦人科にて専門分野である女性医学を中心に周産期・婦人科腫瘍と幅広く学び、多くの患者様に接してきました。また私自身も、年齢の変化と共に起きる女性ならではの体の変化・症状に悩んできました。今まで培ってきたものを糧に思春期から更年期以降まで、患者様一人一人に適切な診療を提供できるかかりつけ医を目指していきたいと思います。女性のライフステージの変化に伴う些細なお悩みや変化に寄り添って、より快適な暮らしができるようお手伝いをいたします。地域の皆様にとって気兼ねなく相談できるようなクリニックづくりを目指してまいります。お気軽にご相談ください。どうぞよろしくお願い申し上げます。

戸越銀座レディースクリニックについて

 品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。

〒142-0041
東京都品川区戸越3丁目1−2 地下1階
・アクセス
 都営浅草線 戸越駅徒歩1分
 東急池上線 戸越銀座駅徒歩4分

時間/曜日
9:15-13:00⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎
14:00-17:30⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎××
17:30-19:00×⚪︎×⚪︎×××

★…土曜日(毎週), 日曜日(月2回不定期)は8:30-11:30
※受付終了は診療終了時間の30分前となります。
※祝祭日は休診となります。

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