プレコンセプションケアという1980年代から提唱されはじめた概念であり、言葉は近年よく聞かれるようになりました。プレコンセプションケアは世界保健機関(World Health Organization:WHO)が2012年に「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会学的な保健介入を行うこと」と定義しました。プレコンセプションケアはすべての女性およびカップルにとっていずれ望むかもれない妊娠に対する健康を維持するために役立てるための考え方です。今回はこのプレコンセプションケアについて説明をしていきます。
プレコンセプションケアについて
プレコンセプションケアの定義とは?
プレコンセプションケアのプレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(conception)は「受精・懐妊」という意味を持ちます妊娠前から妊娠初期にかけての健康管理や予防を含み、妊娠を計画する女性やカップルに対する包括的な医療と支援のことを指します。支援することにより、健康な妊娠と出産の促進・胎児や母体の健康リスクの早期発見やより良い環境での対応を行うことが可能となります。
このようにプレコンセプションケアは、いつか健康な妊娠を望む人にとって重要であり、妊娠前の準備やご自身の健康状態の改善、妊娠に関連するリスクの最小化を支援するために行われます。
プレコンセプションケアの目的は?
プレコンセプションケアの目的は妊娠前の健康管理を通じて、妊娠中の健康リスクを最小限に抑え、母子の健康を促進することです。プレコンセプションケアを行うことにより、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし次世代の子どもたちにより良い健康をもたらすことができます。
具体的には行うこととしては、妊娠前の健康状態や生活習慣を評価し、必要な健康改善や対策をします。例えば極端なやせや肥満、妊娠前から判明している糖尿病や高血圧、煙草やお酒、葉酸の不足が妊娠・出産そして産まれてくる子ども大きく影響することは知られています。妊娠前に判明している病気に対しては妊娠を希望する時期にできるだけ良い状態を保てるよう主治医と連携を取りながら治療計画を立てることも必要です。その他、必要な栄養素の摂取、フルーツや野菜などの栄養バランスの良い食事習慣、適度な運動、禁煙やアルコールの制限など健康的な生活習慣を維持するようアドバイスを行うこともプレコンセプションケアには含まれています。このようなケアを妊娠前から行うことにより妊娠中の合併症や早産、低出生体重児などのリスクを減らし、健康な赤ちゃんの誕生を実現することができます。
プレコンセプションケアはなぜ大切なの?
プレコンセプションケアは健康的で安全な妊娠と出産をする上で大切です。
第一に健やかな身体と健やかな妊娠は、出産および新生児の健康状態に直接影響を与えることが多くの研究から示されています。そのため妊娠前の女性の健康状態を評価し最適な状態を目指すことが大事になります。
またいずれ妊娠を希望するかもしれない男女がともにプレコンセプションケアを知り、実践することも妊娠を計画する上で大切になります。男女がともに行うプレコンセプションケアとして、避妊方法の評価や選択、妊娠に影響を与える可能性のある薬物やご自身の病気の把握、風疹など妊娠に影響を与えうる感染症の予防接種の確認も含まれます。
最後にプレコンセプションケアが大切な理由として、妊娠に関連するリスクの早期評価と管理を可能にするという点です。女性が妊娠前の病気やリスク因子を把握し、それに応じたケアや前もって把握・治療することにより妊娠中や出産時の合併症のリスクを最小限に抑えることができます。
これらの理由から、プレコンセプションケアは健康的で安全な妊娠と出産を促進するために重要なものです。また、母体と胎児の健康を最大限に保つことが期待されており、将来の子供の健康と発達にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
プレコンセプションケアで
知っておくべきこと
妊娠を希望される方プレコンセプションケアにおいて
知っておくべき感染症とワクチン
プレコンセプションケアでは、以下の感染症とワクチンについて情報を知っておくことも重要です。
⚫︎風疹
風疹は妊娠初期に感染すると、胎児に深刻な奇形リスク(先天風疹症候群)を引き起こす可能性があります。症状として短期間で身体全体に発疹が広がるという特徴があります。妊娠中および新生児には投与できないため、予防策として男女ともに妊娠前に風疹に対してワクチンを予防接種します。風疹は産まれた世代によって小さい頃に打っている場合もあります。ただしワクチンの効果が出にくく、抗体がつきづらい・年数とともに減少しているということもあります。風疹ワクチンを接種する必要性があるかどうか風疹抗体価(抗体の量)を採血で確認することもできます。風疹はご自身や妊娠している周りの人にも影響を及ぼす可能性があるため、厚生労働省では風疹ワクチンの接種を受けることが推奨されています。
⚫︎麻疹とおたふく(流行性耳下腺炎)
麻疹は妊娠中に感染した場合、児の発達に影響することは少ないですが、重症化して流産や早産のリスクを引き起こす可能性があります。そのため風疹と同様に妊娠前に麻疹ワクチンの接種を受けることが推奨されています。なお、麻疹と風疹はMRワクチンという混合ワクチンがあり同時に接種することができます。
⚫︎水痘
水痘は妊娠初期に感染すると胎児に合併症(先天水痘症候群)や流産を引き起こす可能性があります。また他の妊娠期間では妊婦は重症化しやすいことが知られています。日本では幼児の時期に予防接種をしますが、効果が薄れている場合があります。風疹と同様に抗体価を確認することができ、妊娠前に水痘ワクチンの接種を受けることが推奨されています。なお、妊娠中に水痘にかかっても抗ウィルス薬を早めに飲むことにより治療ができます。
⚫︎百日咳
百日咳はワクチンで予防できる病気の中でも特に感染力が強いことが知られています。産まれたばかりの赤ちゃんが1歳未満で感染すると命に関わることがあります。通常は産まれたときにお母さんからもらった抗体をある程度もっていますが、お母さんの抗体が不十分である場合があります。日本では妊娠中の百日咳に対するワクチン接種が認められていないため、妊娠前にワクチンの予防接種を受けることが推奨されています。またそのほかの家族が赤ちゃんを守るために事前に予防接種することも大切です。
⚫︎インフルエンザと新型コロナウイルス
インフルエンザと新型コロナウイルスはともに胎児に大きな影響をもたらさないとされていますが、妊婦が病気にかかった場合は重症化や合併症にかかりやすくなります。また感染症は流産・早産のリスクを上昇させます。そのため妊娠中であってもこれらのワクチンを予防接種することは大きな意義があります。
プレコンセプションケアの重要な側面は、これらの感染症についてのリスクを最小限に抑えることで、お母さんと赤ちゃんの健康を守ることです。妊娠を計画している場合は、かかりつけの医師と相談し、家族とともに予防接種の適切なスケジュールを確認することがおすすめです。
妊娠を希望される方プレコンセプションケアにおいて
知っておくべき合併症妊娠
もともと持病のある方が妊娠した場合に合併症妊娠と言います。これらには糖尿病・高血圧・心臓の病気・精神科領域の病気など様々なものが挙げられます。妊娠は病気ではありませんが、妊娠をすることによりもとの病気が悪化することがあります。そのため妊娠前にもとの病気を安定化させることが、安全に妊娠・出産をする上で大切なことになります。妊娠していても薬剤をコントロールすることにより治療と並行できることが多くあります。治療中の方は妊娠が判明した際には、ご自身で判断せず必ず主治医に相談してから治療方針を決定するようにしましょう。
プレコンセプションケアにおいて妊娠前から気をつけておきたい健康管理
プレコンセプションケアにおいて妊娠前から気を付けておきたい健康管理には以下のようなものがあります。
①健康的な食事
バランスの取れた食事をとることが重要です。特に栄養素の多い野菜・果物・全粒穀物・植物性脂肪酸・葉酸が挙げられます。
②適切な体重の維持
妊娠前から適切な体重を維持することも大切です。適切な体重とはBMI(Body Mass Index)で18.5以上25未満と言われています。BMIは体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数(体重Kg÷身長m÷身長m)です。過度な肥満や痩せは妊娠や産まれてくる赤ちゃんに悪影響を及ぼすことがわかっています。
③適度な運動
適切な体重を維持するためにも妊娠前から適度な運動習慣を定期的に行うことが大事です。運動はまたこころの状態にも良い影響を与えます。目安は早歩きやヨガなど軽い運動を1週間に150分以上行うようにしましょう。
④健康診断・検診
妊娠前から定期的な健康診断・検診を受けることによってご自身の身体の状態を把握することも大事になります。必要に応じて歯科検診や性感染症の検査も行いましょう。
⑤健康な生活習慣
禁煙や適度な飲酒は妊娠前から意識すべき生活習慣となります。禁煙に関した妊娠を希望するご本人だけでなく周囲の協力も必要になります。喫煙や飲酒は妊娠中の胎児に直接影響を及ぼすことがあります。
また質のよい十分な睡眠は、ホルモンバランスを整えます。日中の疲労を回復させるためにも睡眠はとても重要です。個人差はありますが、1日の睡眠時間は6~8時間が理想的だといわれています。生活リズムを整えて、疲れやストレスを溜め込まないようにしましょう。
⑥病気や感染症の予防
妊娠前に受けられるワクチン接種の確認はご家族も含めてみんなで予防策を取ることが、産まれてくる赤ちゃんのためにもなります。
プレコンセプションケア外来
への受診
プレコンセプション外来の対象となる方
プレコンセプションケア外来は、妊娠をいつか希望しているカップルや女性のために設けられる外来のことです。
・妊娠を希望しているカップル
・妊娠を希望している女性
・もともと病気をもっている、手術をしたことある方
・妊娠に関連するリスクのある方
・前回の妊娠、出産が大変だった方
・不妊の問題を抱えている方
プレコンセプション外来では将来の妊娠をサポートするために必要な健康相談や検査・予防策を提供します。
プレコンセプションケアセルフチェック
国立成育医療研究センターのホームページには女性用と男性用のプレコンセプションケアのチェックシートが掲載されています。気になる方は一度チェックしてみましょう。
まとめ
プレコンセプションケアは将来の妊娠のためだけでなく、現在のご自身やパートナーの健康状態・生活習慣と向き合うきっかけとなります。当院ではプレコンセプションケアに関連した相談も受け付けております。お悩みのある方は一度ご相談ください。
戸越銀座レディースクリニック診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
婦人科
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産科・妊婦健診
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自費診療
この婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 院長・産婦人科専門医里井 映利(さとい えり)
経歴
- 日本医科大学医学部卒業
- 日本医科大学付属病院 初期研修
- 周産期センター・総合病院 産婦人科 後期研修
- 総合病院 厚生中央病院 産婦人科 産婦人科常勤医師
- 複数企業にて嘱託産業医
学会・資格
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医
- 日本女性医学会 女性ヘルスケア専門医・女性のヘルスケアアドバイザー
- 日本思春期学会 認定性教育講師
- 日本生殖医学会会員
- 日本周産期・新生児医学会 会員
- 日本女性心身医学会 会員
- 日本医師会認定産業医
メッセージ
私は主に目黒にある総合病院の産婦人科にて専門分野である女性医学を中心に周産期・婦人科腫瘍と幅広く学び、多くの患者様に接してきました。また私自身も、年齢の変化と共に起きる女性ならではの体の変化・症状に悩んできました。今まで培ってきたものを糧に思春期から更年期以降まで、患者様一人一人に適切な診療を提供できるかかりつけ医を目指していきたいと思います。女性のライフステージの変化に伴う些細なお悩みや変化に寄り添って、より快適な暮らしができるようお手伝いをいたします。地域の皆様にとって気兼ねなく相談できるようなクリニックづくりを目指してまいります。お気軽にご相談ください。どうぞよろしくお願い申し上げます。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
東京都品川区戸越3丁目1−2 地下1階
・アクセス
都営浅草線 戸越駅徒歩1分
東急池上線 戸越銀座駅徒歩4分
時間/曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
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9:15-13:00 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ★ | ★ |
14:00-17:30 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | × | × |
17:30-19:00 | × | ⚪︎ | × | ⚪︎ | × | × | × |
★ 土・日曜日は8:30-11:30
(受付終了は診療終了時間の30分前)
※日曜日は月2回不定期での診療
※祝祭日は休診となります。
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