妊娠初期にみられる悪心や嘔吐などのつわり症状は、妊婦さんの半数以上にみられると言われています。中でも、体重減少や脱水、電解質異常まで伴う妊娠悪阻は妊婦さんの0.5〜2%に発症します。
つわり、妊娠悪阻の症状や対処法
つわりの症状って?妊娠悪阻とどう違うの?
妊娠すると「つわり」の症状を自覚する方は半数以上におよぶと言われています。具体的には気持ち悪さや嘔吐、眠気やだるさなどが症状として挙げられ、日によって、時間帯によってなど様々です。食事や水分が取れない、摂取してもすぐに吐いてしまうのが続いて、体重減少、脱水、電解質異常などの状態になると「妊娠悪阻」と言い対処療法による治療が必要になることもあります。
母健連絡カードの相談も可能まずは休養と少量頻回の食事水分摂取を
「つわり」も「妊娠悪阻」もはっきりとした原因はわかっていませんが、心身の安静と休養が症状緩和につながります。また、食事や水分摂取も少量ずつこまめに取るなど、体調に合わせて無理なく過ごしましょう。早朝の空腹時に悪心があったり、夕方以降の疲れとだるさを自覚したり、人によって症状の出方も様々です。働いている方でなかなか体調の調整が難しい時には、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」をかかりつけの産婦人科で発行してもらいましょう。症状に応じて診断基準がありますが、通勤緩和や休憩時間の措置だけでなく、勤務時間の短縮や休業を要請することができることもあります。
16週以降も続く場合は精査が必要なこともつわり、妊娠悪阻の時期
つわりの症状は早い方だと妊娠5週頃から現れ、一般的に妊娠8〜11週をピークに、妊娠12〜16週頃には自然軽快することがほとんどです。だるさや眠気などは妊娠期間中ずっと自覚するという方もいますが、妊娠16週以降に発症したり、妊娠後半期もずっと嘔吐症状が続く場合には、妊娠に偶発した胃潰瘍などの他の疾患の可能性もあるため、消化管内視鏡検査などの精査が必要になる場合があります。
つわりや妊娠悪阻によるリスク
水分摂取困難による脱水
食事摂取や水分摂取が十分にできないと、脱水になる恐れがあります。口腔内や皮膚の乾燥、尿量の減少や便秘などの自覚症状に加え、体重減少、尿ケトン陽性などの所見がみられれば、点滴による補液が必要になります。当院でも通院による点滴加療が可能です。
ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1欠乏による代謝性脳症で、意識障害や眼球運動障害、めまいや歩行困難などの症状が現れます。重症妊娠悪阻で食事摂取がままならないと血中のビタミンB1が低下し、ウェルニッケ脳症のリスクが上昇するため、点滴に加えてビタミンB1を添加します。
脱水や長期臥床による静脈血栓塞栓症
静脈血栓塞栓症・VTEとは、下肢の血管に詰まった血の塊(=深部静脈血栓症・DVT)が血流に乗って肺の動脈に詰まる(=肺塞栓症・PE)状態を言います。妊娠によるホルモンや血液凝固系の変化はVTEのリスクを上昇させますが、つわりや妊娠悪阻による脱水、長期臥床はさらなるリスク上昇につながるため、十分な飲水を心がけましょう。飲水が十分にできない場合や嘔吐してしまう場合は、点滴なども考慮します。
対処療法による治療
つわりの緩和に有効なものビタミンB6の経口摂取や漢方など
つわりの緩和にビタミンB6の経口摂取が有効だという報告があります。妊娠中にも摂取可能なマルチビタミンのサプリメントは、葉酸なども含んでおり、食事で十分な摂取ができない時期に補充できるメリットもあります。一般的な用法・用量であればビタミンAについても胎児に影響を与える量にはなりません。また、小半夏加茯苓湯、半夏厚朴湯などの漢方が有効な場合があります。
嘔吐が著しい場合は吐き気止め
気持ち悪さや嘔吐で日常生活に支障が出る場合には、吐き気止め、制吐剤が有効なことがあります。妊娠中の使用で明らかな催奇形性や胎児毒性は認められていないものの、添付文書上は有益性投与とされており、正しい用法・用量の範囲内では妊娠悪阻が重症な場合には効果が十分でないこともあるため、有効性と安全性を考慮して使用します。
脱水の補正とウェルニッケ脳症の予防点滴による補液
先にも述べたように、皮膚や口腔内が乾燥し脱水の所見がみられる時、5%以上の体重減少があり経口水分摂取が難しい時、尿中ケトン体強陽性が続く時などは、糖分とビタミンB1を含んだ点滴による脱水補正の適応になります。通院での点滴加療が難しいくらいの重症妊娠悪阻の場合には入院適応になりますので、入院可能な施設をご紹介します。
まとめ
当院でも妊娠悪阻に対する点滴治療などによる対処療法が可能です。点滴には1~2時間の時間を要するため、午前および午後診療開始の比較的早い時間帯での受診をお願いしております。お困りのことがあれば是非ご相談ください。
診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
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この婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 副院長・産婦人科専門医春名 百合愛(はるな ゆりあ)
経歴
- 日本医科大学医学部卒業
- 同大学女性診療科・産科入局後、大学病院・周産期センターにて勤務
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
学会・資格
- 日本周産期・新生児医学会 会員
- 新生児蘇生法専門コース修了
- 日本女性医学会 会員
- 日本生殖医学会 会員
メッセージ
私は医学部時代に自身が産まれた周産期センターで臨床実習をした際に、生命の誕生の奥深さに感動し、産婦人科医を志しました。大学病院入局後は、産婦人科学全般を学んで専門医を取得し、希望であった周産期分野に従事してまいりました。女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントであり、喜びとともに不安も尽きないと思います。その前後も含めたすべてのライフステージにおける女性が自分らしく健やかに生きるサポートをいたします。産婦人科というとなかなか受診のハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思いますが、安心してご相談いただけるよう丁寧な診療を心がけますので、ぜひお気軽にお越しいただけましたら幸いです。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
東京都品川区戸越3-1-2 イマーレビル B1F
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