日本ではいまだに風疹の流行を排除することができておらず、先天性風疹症候群を発症してしまう赤ちゃんがいます。避けられるリスクを回避するために、抗体検査やワクチン接種などで妊娠前から備えましょう。
風疹感染症・先天性風疹症候群(CRS)について
TORCH(トーチ)症候群とは
妊娠中にお母さんが感染することで赤ちゃんへ重篤な影響が出る感染症があり、その総称を疾患の頭文字からTOACH(トーチ)症候群といいます。
T:トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)
O:他の感染症(Other infections:梅毒、B型肝炎、水痘、EBウイルス等)
R:風疹(Rubella)
C:サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)
H:単純性ヘルペス(Herpes simplex virus)
今回は、風疹による風疹感染症・先天性風疹症候群について、症状や予防法などについてお話ししていきます。
風疹感染症
風疹は、発熱、発疹、耳後部のリンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹性疾患です。症状が出ないことも15~30%程あるとされますが、成人になってから感染するほど重症化や長期化のリスクがあると言われています。そして、妊娠中のお母さんが妊娠20週までに感染すると、赤ちゃんに先天性風疹症候群(CRS)を発症することがあります。アメリカやヨーロッパ・中南米などの国ではすでに風疹の排除に成功していますが、日本では2004年、2012~2013年、2018年に風疹が流行し、多数の先天性風疹症候群の赤ちゃんが出生しています。その背景として風疹ワクチン未接種世代であった当時20~40代男性の風疹感染者が多かったことが指摘されています。
先天性風疹症候群(CRS)
妊娠初期にお母さんが風疹に罹患すると、赤ちゃんに白内障や緑内障などの眼疾患、先天性心疾患、難聴、小頭症、精神発育遅延などが現れる先天性風疹症候群(CRS)を発症するリスクがあります。妊娠中に風疹に感染した際のCRS発症のリスクは、風疹発症日が妊娠4~6週で100%、7~12週で80%、13~16週で45~50%、17~19週で6%、20週以降で0%と報告されています。妊娠初期検査で風疹HI抗体が32倍以上であれば、再感染してもCRSの発症はほとんどありません。
抗体検査、ワクチンについて
風疹抗体検査
風疹にかかったことがあったり、ワクチンを接種すると、体内に抗体が作られます。抗体検査はまず風疹HI抗体を測定することが一般的です。
妊娠前の女性や、同居の方が風疹HI抗体16倍以下の場合には、ワクチン接種が推奨されます。ワクチン接種後は2カ月間の避妊期間を設けましょう。
妊婦健診中の検査で、風疹HI抗体32倍~128倍の場合には必要十分な抗体があるため、先天性風疹症候群発症のリスクはほとんどありません。風疹HI抗体16倍以下の場合には、妊娠20週までは感染のリスクがあるため、通勤ラッシュや人混みを避ける、同居家族も抗体が低い場合にはワクチン接種を行う、出産後にワクチン接種をするなどが勧められます。風疹HI抗体256倍以上の場合には、感染時期を推定するために風疹IgM抗体と風疹HI抗体の推移を測定します。風疹IgM抗体陰性の場合には既往感染と判断し、風疹IgM抗体陽性かつ風疹HI抗体が上昇する場合には妊娠中の初感染と判断します。
風疹ワクチン・麻疹風疹(MR)ワクチン
現在、麻疹風疹混合(MR)ワクチンは定期接種となっており、第1期が生後12~24ヵ月に至るまで、第2期が5歳以上7歳未満で小学校入学前の1年間に、それぞれで1回ずつ接種します。感染歴や接種歴がなく、抗体が低い妊娠を希望する女性やその同居の方は、風疹ワクチンもしくは麻疹風疹混合(MR)ワクチンの接種が推奨されます。自分自身や家族の感染を防ぐだけでなく、これから生まれてくる赤ちゃんを先天性風疹症候群から守るために、ワクチン接種が可能な方が積極的に接種を行い、風疹を流行させないことが重要です。
公費による抗体検査・ワクチンの助成
妊娠中や妊娠を希望する女性、その同居の方については、風疹HI抗体検査が公費負担で可能です。また、妊娠を希望する女性、その同居者の方が抗体が低かった場合や、妊娠中の検査で抗体が低かった方の出産後には、予防接種の費用を全額助成しています。条件などもあるため、お住まいの自治体のHP等で確認しましょう。
また、2018年の風疹流行を機に、これまでに風疹の公的予防接種を受ける機会がなかった世代とされる昭和37(1962)年4月2日から昭和54(1979)年4月1日までに生まれた男性に対して、令和7年3月31日まで抗体検査とワクチン接種が受けられるクーポン券が各自治体より発行されており、全国の医療機関で使用できます。
まとめ
風疹による先天性風疹症候群について、抗体検査やワクチン接種等についてお伝えしました。当院でも抗体検査および風疹ワクチン・麻疹風疹混合(MR)ワクチンの接種が可能ですので、ぜひご相談ください。
診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
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この婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 副院長・産婦人科専門医春名 百合愛(はるな ゆりあ)
経歴
- 日本医科大学医学部卒業
- 同大学女性診療科・産科入局後、大学病院・周産期センターにて勤務
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
学会・資格
- 日本周産期・新生児医学会 会員
- 新生児蘇生法専門コース修了
- 日本女性医学会 会員
- 日本生殖医学会 会員
メッセージ
私は医学部時代に自身が産まれた周産期センターで臨床実習をした際に、生命の誕生の奥深さに感動し、産婦人科医を志しました。大学病院入局後は、産婦人科学全般を学んで専門医を取得し、希望であった周産期分野に従事してまいりました。女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントであり、喜びとともに不安も尽きないと思います。その前後も含めたすべてのライフステージにおける女性が自分らしく健やかに生きるサポートをいたします。産婦人科というとなかなか受診のハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思いますが、安心してご相談いただけるよう丁寧な診療を心がけますので、ぜひお気軽にお越しいただけましたら幸いです。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
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