性的接触による感染症を性感染症と呼び、英語ではSexually Transmitted Diseases(STD)またはSexually Transmitted Infections(STI)と言います。症状がないまま経過して、不妊やがんの原因となることもあるため、プレコンセプションケアやブライダルチェックでもスクリーニング検査の項目として取り入れられています。具体的にどんな感染症があるのかご紹介していきます。
性感染症(STI、STD)
性感染症ってどんな病気?
性感染症は性的接触を介して性器や口などの粘膜や皮膚から感染する感染症です。痛みやかゆみ、皮膚症状などが問題となるだけでなく、症状がないまま経過して知らぬ間に人にうつしてしまったり、不妊やがんの原因となったり、妊婦さんであれば赤ちゃんにうつしてしまったりなども重大な問題となります。コンドームの使用やワクチン接種による感染予防や、適切な医療機関受診による早期発見および早期治療が大切になります。
性感染症のスクリーニング検査
性感染症のスクリーニング検査は、症状がない方に対して感染の有無を確認するために行われるため自費診療になります。不妊などの合併症の発症を予防するために行われ、プレコンセプションケア、ブライダルチェックなどの検査項目にも含まれており、性的接触の経験があれば検査の意義があります。産婦人科診療ガイドラインでは、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、HIV感染症の4疾患を基本に、ハイリスクの方(不特定多数のセックスパートナーがいる、性感染症の既往があるなど)には腟トリコモナス症、B型肝炎・C型肝炎の検査も推奨されています。
主な性感染症の種類
●性器クラミジア感染症
<症状>おりものの変化や下腹部痛、性交時出血などを自覚することがありますが、ほとんどが無症状で経過します。無治療のままクラミジアによる卵管炎や付属器炎を長期に放置すると、卵管通過障害による卵管不妊や異所性妊娠の原因になったり、骨盤内炎症性疾患(PID)や肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を発症することがあります。また、近年クラミジア咽頭感染も問題となっています。妊婦さんが感染すると産道感染により赤ちゃんにも感染し、新生児クラミジア結膜炎、咽頭炎、肺炎などのリスクもあります。
<検査>おりものや咽頭検体を調べます。淋菌感染症と合併していることがあり、同時に検査を行うことが望ましいとされます。
<治療>無症状や軽症の場合には抗菌薬の内服を行い、3週間以上あけて再度検査を行い効果を確認します。パートナーにも検査・治療を勧め、その間は性的接触を避け、コンドーム使用をしましょう。
●淋菌感染症
<症状>おりものの変化や下腹部痛、性交時出血などが症状としてみられますが、女性の50%が無症状感染とされます。性器クラミジア感染症と同様に卵管炎や付属器炎、骨盤内炎症性疾患(PID)や肝周囲炎などの原因となることがあります。また妊婦さんが感染すると産道感染により新生児結膜炎のリスクがあります。
<検査>おりものや咽頭検体を調べます。性器クラミジア感染症と合併していることがあり、同時に検査を行うことが望ましいとされます。
<治療>抗菌薬の点滴もしくは筋肉注射を行います。耐性菌が存在するため、治療の効果を確認します。パートナーにも検査・治療を勧め、その間は性的接触を避け、コンドーム使用をしましょう。
●性器ヘルペス
<症状>単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型による感染症で、性器に痛みやかゆみのある水疱や潰瘍ができます。初感染の場合には発熱や倦怠感などの全身症状が出ることがあります。疼痛が強く排尿や歩行が困難となり、足の付け根の鼠径リンパ節の腫れと痛みがみられます。再発を繰り返すのが特徴で、再発の場合には症状が軽度なことが多くなります。
<検査>患部の状態を診察した上で、病変をこすって検体を採取したり、難しい場合には採血などを行います。
<治療>抗ウイルス薬の内服が有効です。重症な場合には点滴で治療を行います。再発を繰り返す場合には、長期的に抗ウイルス薬を内服することもあります。
●外陰尖圭コンジローマ
<症状>ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトパピローマウイルス:HPV)6型または11型による感染症で、性器にカリフラワー様、鶏のとさか様のイボができます。
<検査>患部の視診により診断します。難しい場合には患部を生検します。
<治療>塗り薬(イミキモドクリーム)や外科的切除、冷凍療法、電気焼灼などがあります。子宮頸がん予防のためのワクチンである4価HPVワクチン(ガーダシル)、9価HPVワクチン(シルガード)には、HPV6型および11型予防の効果があります。
●梅毒
<症状>梅毒トレポネーマによる感染症で、治療が必要な状態を活動性梅毒といい、感染力の強さから1年未満を早期梅毒、1年以降を後期梅毒に分けます。梅毒トレポネーマが侵入した部位(陰部や口腔など)にできるしこりやただれ(初期硬結、硬性下疳)を一次病変とし、体内に散布されたためにできる全身性の発疹(梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹など)を二次病変と言います。一次病変は早期梅毒第1期(感染から1ヶ月前後)、二次病変は早期梅毒第2期(感染から1〜3ヶ月)によくみられますが、併存することもあります。数年〜数十年治療をせずに第3期梅毒に至ると感染力はなくなりますが、心臓や血管、脳などに障害が残ることがあります。適切に治療すると陳旧性梅毒となります。神経梅毒は病期によらずみられることがあります。また妊娠している場合に胎盤を通過して赤ちゃんに感染すると先天性梅毒のリスクがあります。
<検査>患部の視診や病変部からの病原体検出、血液検査による梅毒抗体検査などを行います。東京都内の保健所や検査室では梅毒・HIVに関して、匿名・無料で検査が受けられます。
<治療>抗菌薬の内服や点滴を行います。効果が不十分な場合や再発することもあるため、慎重に治癒判定を行います。
●腟トリコモナス症
<症状>腟トリコモナス原虫による感染症で、黄色や黄緑色の泡状のおりものが増加したり、性器が赤くなったりしますが、無症状のこともあります。性行為以外でも、タオルの使用などで感染することがあります。
<検査>おりものを顕微鏡で観察したり、培養検査などを行います。
<治療>経口薬による治療が一般的です。パートナーにも検査・治療を勧めましょう。
●HIV感染症
<症状>血液や体液を通してヒト免疫不全ウイルス(HIV)が感染することによって生じます。感染から2〜3週間後に発熱や咽頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様の症状がみられることがありますが、無症状で経過することもあります。早期発見・早期治療により後天性免疫不全症候群(AIDS)の発症を長期に抑制できます。
<検査>血液検査により診断します。東京都内の保健所や検査室では梅毒・HIVに関して、匿名・無料で検査が受けられます。
<治療>抗HIV薬によりAIDSや母子感染の発症を抑えます。パートナーにも検査・治療を勧めましょう。
まとめ
性感染症の知識は身体を守るためにとても大事です。ご不安なことがあれば、女性スタッフがプライバシーに配慮して診療を行いますので、ぜひご相談ください。
診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
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この婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 副院長・産婦人科専門医春名 百合愛(はるな ゆりあ)
経歴
- 日本医科大学医学部卒業
- 同大学女性診療科・産科入局後、大学病院・周産期センターにて勤務
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
学会・資格
- 日本周産期・新生児医学会 会員
- 新生児蘇生法専門コース修了
- 日本女性医学会 会員
- 日本生殖医学会 会員
メッセージ
私は医学部時代に自身が産まれた周産期センターで臨床実習をした際に、生命の誕生の奥深さに感動し、産婦人科医を志しました。大学病院入局後は、産婦人科学全般を学んで専門医を取得し、希望であった周産期分野に従事してまいりました。女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントであり、喜びとともに不安も尽きないと思います。その前後も含めたすべてのライフステージにおける女性が自分らしく健やかに生きるサポートをいたします。産婦人科というとなかなか受診のハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思いますが、安心してご相談いただけるよう丁寧な診療を心がけますので、ぜひお気軽にお越しいただけましたら幸いです。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
東京都品川区戸越3-1-2 イマーレビル B1F
・アクセス
都営浅草線 戸越駅 徒歩1分
東急池上線 戸越銀座駅 徒歩4分
時間/曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
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17:30-19:00 | × | ⚪︎ | × | ⚪︎ | × | × | × |
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(受付終了は診療終了時間の30分前)
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