婦人科外来では陰部のかゆみを自覚されて受診する方が多くいますが、なかなか人には相談できず、原因は?と不安になったり、間違ったケアで悪化してしまう方もいらっしゃるかと思います。まずは受診していただくことをお勧めしますが、原因や治療法などをご紹介していきます。
陰部のかゆみを自覚したら
陰部のかゆみ
女性にとっておりものが増えたり、陰部のかゆみを自覚するのはとても不快なことと思います。その原因は多岐に渡り、原因を特定して適切に治療を行うのは簡単ではありません。まずは、急に自覚するようになった急性のものなのか、数日〜数週間続くような慢性のものなのか、どのようなかゆみをどこに自覚するのかなど問診の上で、外陰や膣の視診による皮膚や粘膜、おりものの変化を確認し、検査などを考慮します。
正常なおりものって?
おりものは①外陰の分泌腺からの分泌液②腟壁からの漏出液③腟や子宮頸管からの剥離細胞と頸管粘液④子宮内膜や卵管からの分泌液⑤感染している微生物とその産生物によりできています。頸管粘液や子宮・卵管からの分泌液の量や性状は女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンのレベルにより月経周期内でも変化します。生理的には、月経中間期である排卵期にはおりものの量は増えます。
急性のかゆみ
急性掻痒症の原因としてまず感染症を考えます。性器のカンジダ症(カンジダ外陰炎、カンジダ腟炎)は陰部のかゆみを伴う疾患で頻繁にみられる真菌感染症で、75%の女性が生涯で1回は経験すると言われています。また、頻度の高い感染症として細菌性腟症があり、膣内の正常細菌叢を保っている乳酸桿菌(ラクトバチルス)が減少し、ガードネレラなどが増殖することで帯下の増加や腟の灼熱感を伴う炎症を引き起こします。これらはおりものの培養検査などによって診断します。そのほかにも、性器ヘルペスなどのウイルス性のもの、ケジラミや疥癬(ダニ)などの寄生虫症なども挙げられます。
慢性のかゆみ
慢性掻痒症の原因の多くは皮膚自体の疾患であることが多く、婦人科外来にてよくみられるものが接触性皮膚炎(かぶれ)と外陰腟萎縮・萎縮性腟炎です。感染症が否定された場合には、接触性皮膚炎の原因となる生理用品や避妊用品、外用薬などの使用歴がないかなどを確認します。外陰部は化学物質や機械的な刺激に弱く、特に思春期前や更年期の女性に多いとされます。また、エストロゲン分泌の低下による萎縮性腟炎は更年期以降でよくみられます。そのほかにも、新生物、全身性疾患、心因反応などが原因となることがあります。
カンジダ、細菌性腟症など感染によるもの
カンジダ症
カンジダ外陰炎、カンジダ腟炎は真菌(カビ)の一種であるカンジダによる感染症です。性交渉により感染することもありますが、カンジダは消化管や皮膚の常在菌であり、多くが抗菌薬内服後や妊娠時、糖尿病や消耗性疾患罹患時など、免疫力の低下が誘因となって発症します。症状としてはカッテージチーズ様、酒粕様といった特有なおりものの増加やかゆみを伴い、おりものの検鏡検査や培養検査で診断します。治療には抗真菌薬の腟座薬や外用薬、内服薬を使用し、症状が消失するまで行います。
細菌性腟症
膣の中は常在菌の自浄作用により病原菌の増殖が抑えられています。細菌性腟症は、その正常細菌叢を保っている乳酸桿菌(ラクトバチルス)が減少し、好気性菌(ガードネレラなど)や嫌気性菌などの病原菌が異常に増殖した状態を言います。おりものの増加や悪臭、下腹痛、不正出血などを認めることがありますが、約半数は無症状で経過します。妊娠時には絨毛膜羊膜炎による早産のリスクを高めたり、非妊時には子宮内膜炎や骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こすこともあります。おりものの培養検査により診断し、治療にはメトロニダゾールの腟座薬や内服薬を使用します。
その他ウイルス性、寄生虫症など
そのほかにも、単純ヘルペスウイルスによる性器ヘルペスなどのウイルス性感染症、ケジラミや疥癬(ダニ)による寄生虫症、腟トリコモナス原虫による腟トリコモナス症などの感染症もおりものの増加や性状の変化、陰部のかゆみなどを伴います。それぞれの特徴的な所見がないか、問診や診察を行い、検査・治療をしていきます。
接触性皮膚炎、萎縮性腟炎など非感染性のもの
接触性皮膚炎(かぶれ)
接触性皮膚炎はいわゆる“かぶれ”であり、何らかの刺激物質やアレルギー性物質が皮膚に触れることにより赤みやかゆみ、腫れを引き起こすことを言います。外陰部は生理中のナプキン、コンドームや外用薬などの使用により刺激を受けやすく、感染によらない接触性皮膚炎は珍しくありません。石鹸やウォシュレットなどで洗いすぎることや温かい風呂や湯たんぽによる熱ダメージも症状を悪化させる原因になります。まずは原因となる刺激物や習慣を避け、軽度のかゆみの場合には皮膚保湿剤の使用を考慮し、強いかゆみの場合にはステロイド外用による治療を行います。
外陰腟萎縮・萎縮性腟炎
女性ホルモンであるエストロゲンの低下に伴いおりものの量が減り、腟や外陰部の乾燥やかゆみを自覚することがあり、これを外陰腟萎縮、萎縮性腟炎と言います。更年期以降の女性によくみられますが、産褥期やエストロゲンを抑える薬の使用時などにもみられます。治療はエストロゲン製剤の腟座薬や内服薬などを使用します。
その他
今までご紹介したものは比較的よくみられる疾患ですが、それ以外にも皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎など)、新生物(パジェット病、外陰癌など)、全身性疾患の外陰症状(糖尿病、クローン病、リンパ腫など)、心因反応(不安障害)なども原因となるため、なかなか改善がみられない場合にはそれらを専門とする医療機関へご紹介することもあります。
まとめ
陰部のかゆみは日常診療で多く遭遇する症状のひとつですが、なかなか相談しにくい、受診しにくいと考える方もいらっしゃるかと思います。当院は女性スタッフが、患者様の心情に配慮しながら診察を行いますので、是非一度ご相談ください。
診療案内
戸越銀座レディースクリニックでは婦人科診療・妊婦健診を含めた産科診療の他に婦人科検診も行っております。定期的な婦人科検診による早期発見・治療が可能です。
産婦人科の診察に怖いというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。初めての方でも、女性スタッフによる声かけ・痛みの配慮・軽減・環境づくりに努めますのでぜひお気軽にお越しください。診療は日本産科婦人科学会・産婦人科専門医が行います。産婦人科に関してお悩みのある方は、ぜひご相談ください。
婦人科
その他 Others
産科・妊婦健診
婦人科検診・ドック
自費診療
この婦人科コラムを書いた人
戸越銀座レディースクリニック 副院長・産婦人科専門医春名 百合愛(はるな ゆりあ)
経歴
- 日本医科大学医学部卒業
- 同大学女性診療科・産科入局後、大学病院・周産期センターにて勤務
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
学会・資格
- 日本周産期・新生児医学会 会員
- 新生児蘇生法専門コース修了
- 日本女性医学会 会員
- 日本生殖医学会 会員
メッセージ
私は医学部時代に自身が産まれた周産期センターで臨床実習をした際に、生命の誕生の奥深さに感動し、産婦人科医を志しました。大学病院入局後は、産婦人科学全般を学んで専門医を取得し、希望であった周産期分野に従事してまいりました。女性にとって妊娠・出産は大きなライフイベントであり、喜びとともに不安も尽きないと思います。その前後も含めたすべてのライフステージにおける女性が自分らしく健やかに生きるサポートをいたします。産婦人科というとなかなか受診のハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思いますが、安心してご相談いただけるよう丁寧な診療を心がけますので、ぜひお気軽にお越しいただけましたら幸いです。
戸越銀座レディースクリニックについて
品川区戸越・戸越銀座商店街にある戸越銀座レディースクリニックは、産科・婦人科の診療・検診を行っているクリニックです。
クリニックは戸越駅徒歩1分・戸越銀座駅徒歩4分の立地にあります。エレベーターが完備されており、お買い物・お出かけのついでにお越しいただけます。プライバシーにも配慮しながら受付から診察まで女性スタッフ・女性医師が対応、診療を通して患者様が気兼ねなく、快適に過ごせるよう努めてまいります。
〒142-0041
東京都品川区戸越3-1-2 イマーレビル B1F
・アクセス
都営浅草線 戸越駅 徒歩1分
東急池上線 戸越銀座駅 徒歩4分
時間/曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:15-13:00 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ★ | ★ |
14:00-17:30 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | × | × |
17:30-19:00 | × | ⚪︎ | × | ⚪︎ | × | × | × |
★ 土・日曜日は8:30-11:30
(受付終了は診療終了時間の30分前)
※日曜日は月2回不定期での診療
※祝祭日は休診となります。
記事に関連する記事
性器クラミジア感染症
知らないうちに感染していたり、感染を広げてしまうこともあるため、注意が必要です...
無性に〇〇が食べたい!あなたに必要な食事と栄養素について
セミオープンシステム・里帰り出産
今回は、セミオープンシステム・里帰り...